てなわけで
田中邦衛さん
本当にありがとうございました。
「北の国から」は人間の生き方を考えさせてくれる本当に素晴らしい作品でした。
という以上に私にとっては何回も観直しながら
亡き父の教えを思い出すという作品でした。

私の実家は北海道の中でも本当の山奥でした。
それは祖父が北海道に渡るときに商いをやっていて
昭和になってから倒産し
やむ無く先に北海道に入植していた親戚から
馬一頭と山奥の稲作の条件としては大変厳しい土地を譲り受けて
その地に住む事になったからです。
それはすでに昭和に入っていましたので
私の家はいわゆる屯田兵とは言えません。

さらに7人兄弟の長男である父が12歳の時に
父の父、私の祖父が亡くなったそうです。
「お前の父親は12歳で大人と一緒に山に入って木を切り倒す作業をやっていた。
　弟や妹を食わせるためだ。その時の父親は身長も低い子供だったけど
　大人と一緒の仕事をしていた。お前にそれができるか?」
幼い頃から生意気な私はそうやって祖母に説教されていました。
父親に反抗する度に。
今の時代でしたら、児童虐待とも言われそうな状況で
貧しい一家を支えるために父親は早くから
そうやって兄弟姉妹のために働くことが自分の使命であると
何の疑問も持たずに生きた人物でした。

私たち兄弟が生まれた頃には
以前よりは生活もマシになった様子です。
それでも、山奥の水田は思った通りの米も収穫できず。
特に贅沢なことをした訳でもないのに
家庭は中学校で知り合った他の友人たちよりは貧しいものでした。

ですが、父親は貧しいことを決して卑下することはありませんでした。
「貧しいということは決して恥ずかしいことではない。
　ただし、決して子供達を飢えさせてはいけない。」
そういう信念で私達を育てたそうです。
贅沢なものはほとんど買ってくれなかったのですが、
工夫して使えるものは大切にする。
捨ててあるものも平気で拾ってきて
誰かが不要になったものをもらってきて
自分で直しながら使う。
私達はかなり恥ずかしかったけど
父は使える物を簡単に捨てる方が悪い
と言わんばかりでした。
（五郎さんが捨ててあった自転車を直して使ったら警察が来たり
　純と蛍が伊丹十三が新しい靴を買ってくれて、捨てた古い靴を
　探しに行ったりというシーンもありました）

幼い頃、家が傾きかけた時（物理的にです）
近所の離農した家から建材をもらい
足りない建材を用意して
大工も雇わないで自分で家を建てました。

北の国からで「水を引く」場面がありましたが
父は毎日毎日井戸堀を続けていました。
「何故家を建てると言いながら、毎日穴掘りしてるんだろう？」
そんな疑問を持ちながら、父の姿を眺めていた幼い頃を覚えています。
おかげで、完成した家は必ずしも立派とは言えませんでしたが
大雪山渓の美味しい地下水は飲み放題、使い放題でした。
（今はそれと同じ水をペットボトルで売ってるのですね）
道路工事の人たちがわざわざ我が家に水をもらいに来たのは
恐らく私達にとっては普通の水が
実は大変美味しい水であったという理由だったのでしょう。

そして
いつも作物を作ることに生きがいを感じていた。
父親が生涯でたった一度作った名刺には
「農業　○○ ○ 」
と印字されています。
自分の職業である農業に誇りを持っていたのでしょう。

父が亡くなり
町の役場に死亡届を出しに行った時
職員の方から
「町長室に来てください。」
と呼ばれて何だろうと尋ねて行ったら
町長が嬉しそうに父の思い出を語ってくれました。
「いつも持ってきてくれる山菜が嬉しかった。」と。

私が知っている父親は
礼儀正しい人でした
一方で
どんなに肩書きが偉い人でも
物怖じせずに
自分の考えを開けっ広げに語る人でした。
町長だけでなく
私が最初に勤めた学校の理事長にも
平気で自分が釣った鮭や
自分が撃った鹿を食べさせる人でした。
「何言ってるんだ。美味いものを食わせて何が悪い。」
なんて言っていましたね。

てなわけで
「北の国から」を観るたびに
父の教えを思い出していた私としては
本当に悲しいです。

願わくば
純くんが自分の子供
五郎さんの孫を連れて
もう一度北海道の六郷の森で生活するドラマを作って欲しいなと思うのです。