2021年10月

2021年10月17日13:46

カテゴリ: 演劇

「恋です」って自分にはあったのかなあと思うこと。

てなわけで
最近何かと個人的に色々ありまして、ブログを書く気力もなかったのですが、
先日載せたようにしっかり演劇の公演というか発表はしっかりやりました。
たかが文化祭と言われようと、与えられた中で最良のものを創ること。
人が足りないとか、金がないとか、時間がないとかは絶対に言ってはいけないこと。
概ね観て頂いた方には
「面白かった」
とお世辞でも言っていただけたことは
たった1人で舞台に立った彼女にとっても幸福なことだったと思います。

さて、この一ヶ月は文化祭だけでなく、個人的な事情で北海道との往復。
何よりまた一つ歳をとって、ついに還暦にリーチがかかりくたびれ果てる毎日でした。

10月期のドラマを観ていると
そんな自分を少し元気にさせてくれたのが
「恋です」というドラマです。

なぜ元気になったかというと
人間こんなに純粋に真っ直ぐに人を好きになれる時期ってあるんだよなあって思えたことです。
自分にとってそんな気持ちを持てたのは何時までだったかな。
そんなことを思ってしまいました。
一体いつから気持ちが汚れてしまったのか。
振り返ってみると自分にもそんな純粋な時代があったような
実はなかったような。

好きな人に真っ直ぐに「好きだ」と言えるのは
なかなか難しいことかもしれません。
だからこそ、曇りがない真っ直ぐな気持ちを
真っ直ぐに表現できる人間がうらやましい。
そして、真っ直ぐさを演技しても不自然ではないということが
いかに難しいいことか。

もっともっと単純に生きたい。
そんなことを思うことのできるドラマってなかなか良いと思います。

2021年10月07日02:22

カテゴリ: 演劇

文化祭公演、幻のごあいさつ

コロナ禍が少しだけ休憩かと思われる今日
昨年度中止になった文化祭が無事に開催されました。
残念ながら家族も含め生徒以外は入場できないということでしたが。
何にせよ、こうやって本来あるべき学校行事が開催できるという
当たり前のことがどれほど幸せなことか
それを逆に知ることができた事は生徒達にとっても
とても良い「気持ち」の経験ではなかったでしょうか？

永い間、例えどんなに惨めな状態でも演劇を続けたい。
一緒にやってくれる人間が一人でもいれば。
そういう気持ちで奇跡的に18歳から演劇を続けて来れました。

「芝居をやる者は、人が足りない、時間が足りない、金が足りない
　などとは決して言ってはいけない。与えられた条件の下で
　精一杯良いものを創ることができなければならないからだ。」

私の尊敬するつかこうへい氏の若き日の言葉です。
役者をやる人間が一人しかない。
コロナ下で練習時間が限られている。
お金は全くない。
照明機材さえ使えない。

そんな中でそれでもどうしたら納得いく芝居ができるだろうか？
少しでも本物の芝居とは何かということを伝えていけるだろうか？
そして、それでも最低限のことは出来たのではないかと考えています。

「先生の芝居は難しいからね。」

そんな無神経な言葉を直前にぶつけるような人間がいました。
確かにそのことで部員が増えないのかもしれません。
その方にしてみると、部員が集まるような中途半端な部活動の方が
有益なのでしょうね。それも分かります。
ですけど、それでもやはり本物の芝居を作りたい。
一人でも一緒にやってくれる人間がいるうちは。
一人でも観てくれる人がいるならば。
そんな気持ちがそんな無神経な言葉に負けてはいけないと
逆に自分たちを支えてくれたのだと思います。

ＳＮＳが普及した時代
表現の仕方が大きく変わっています。
それも十分わかっているけど
だからこそ
演劇の面白さが少しでも伝わってくれたらいいのになと思います。

本日はご来場ありがとうございました。
ごゆっくりお楽しみ下さい。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　早瀬　俊
　　　　　　　　　　　　　

　

2021年10月03日03:46

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「家族の食卓　１９９６」復刻バージョンを公開します。

戦争をしらずに育ったお父さんたちも
バブル経済の中
経済戦争に巻き込まれ
やがて玉砕の危機にさらされ
かろうじて生き延びたけど
残ったのは空っぽな家という建物だけの空間。

そこに待っているはずの家族は
きっと戦いにつかれた私を
黙って慰めてくれるだろう。

この国は急加速で奈落の底に向かっている。
昨年神戸で大きな震災があったのも
新興宗教が純粋な者たちを洗脳して
国の転覆を謀ったのも

それは、これから先ずっと長く続くだろう
この国の苦難のなかに現れる
一つの現象にすぎないのだ。

私は家族を再生する。
それしかできない。
それしか希望を見出す術をおもいつかないからだ。

さあ、私達のホームドラマの始まりです。

2021年10月03日03:06

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ＳNS劇場　「家族の食卓」復刻バージョン⑥

　　間

妹　「カット！・・・もういい加減にしてよ。どうしてこういう展開になるの。」
母　「まったく、最近の男ときたら、」何を考えているんだか。」
妹　「お父さん、いつまでやってるの。もうやめるわよ。」
母　「智博もいい加減にしなさい。。」
父　「あれ、どうしたんだい。」
祖母「どうしたも、こうしたもないよ。馬鹿馬鹿しくて私はもうやってられないわよ。」
母　「あら、結構乗ってたんじゃありませんこと。」
祖母「何言ってるのよ。こんなこといい歳して、本気でできるわけないでしょ。」
妹　「大体、兄さんがいけないのよ。そこまでやることないじゃない。」
兄　「まあ、少々わざとらしかったのは認めますけどね。
　　　どうせやるなら楽しい方が・・・。」
母　「なんで、あれが楽しいのよ。」
祖母「大体お前がね、一度でいいから頼もしいお父さんを演じたいなんて言うから
　　　こんなことになるんだよ。」
妹　「もう、私疲れちゃった。行くわよ、彼氏のマンションに。」
母　「私だって」あの人が待っているんですからね。」
祖母「おうおう、若いツバメ捕まえて、浮かれちゃって・・・。」
母　「お母さんだって、高橋さんのお爺ちゃんと老人ホームに入るんでしょ。
　　　いい歳してお盛んです事。でも、高橋さんちのおじいちゃんもお気の毒よねね。
　　　厄介払いされた上に、こんなヘソの曲がったばばあに付きまとわれて。」
父　「おいおい。家族最後の日位、仲良くしようじゃないか。」
妹　「仲良くはいいけど、もうこんなわざとらしいの嫌よ。疲れちゃう。」
兄　「設定に無理がありすぎますよ。」
父　「それじゃあ、普通にやろう、普通に。」
母　「普通にってそういう風にですか？」
祖母「今どき、こんなドラマ流行らないんじゃないの？」
母　「２０年も前の感覚ですよ、こんなの。」
兄　「大体、あんなに都合よく色んな事が起こるわけないでしょ、しかも同じ日に。」
妹　「でも、私が純情だっていうのは、本当よね。」
祖母「よくまあ、抜け抜けと・・・。母親に似て嫌な性格だこと。」
兄　「どうでもいいけど、早く行かせてくれよ。」
妹　「そうよ。せっかくの週末なのに、こんなことしてるの、時間がもったいないわよ。」
母　「私もあの人に夕食作ってあげる約束してるっていうのに・・・。」
兄　「僕だって予備校の寮に入らなくちゃいけないんですからね。
　　　いい加減、勘弁して下さいよ。」
父　「やらないならいいよ！その代わり、お金はやらないよ。」
妹　「え～～！それは困るわよ。」
兄　「それがなくちゃ、入寮費が払えないじゃないですか。」
祖母「私だって、費用をまだ払ってないんだからね。」
父　「黙りなさい！これは私の金だ。私の血と汗と涙の結晶だ。
　　　その金を一円残らずやろうと言ってるんじゃないか。」
母　「それはありがたいと思ってますけど・・・。」
祖母「でも、お前はどうやって生活するんだい、これから・・・。」
父　「もうお金は必要ないんだ。」
祖母「どういう意味だい？」
妹　「いいじゃない。いらないって言ってるんだから。何とかなるわよ。
　　　ねえ、お父さん。」
父　「じゃあ、始めようじゃないか。我々の最後のホームドラマを・・・。」
兄　「しょうがないなあ。」
妹　「本当、これっきりだからね。」
祖母「やれやれ、育て方を間違ったかねえ。」

　父、スポットの中。　

父　「レディス・アンド・ジェントルメン。本日はお忙し中、ご来場下さいまして
　　　誠にありがとうございます。今宵、オールスター・キャストにて上演いたします、
　　　とっておきのホームドラマでございます。」
、
　父を残して全員去る。父、食卓に座り、新聞を広げる。他の家族は後方、シルエット。

母　「あなた、今日またお母さんが近所で私の悪口言いふらしているのよ。
　　　ちょっと街まで買い物に出かけただけなのに
　　　『家事をほったらかして、遊んでばかりいる』
　　　だって。何でそんなこと言われなくちゃいけないのかしら。
　　　・・・あなたからお母さんに何とか言ってよ。」
兄　「お父さん、実は相談が・・・、い、いや。やっぱりいいや。」
母　「あなた、今日智博の三者面談があったんだけど・・・。
　　　このままじゃどこの大学にも入れないってよ。どうしたらいいかしら・・・。」
妹　「おとうさん、あ、あのね・・・。い、いえ、何でもないわ。」
母　「あなた、この頃秋子の帰りが遅いのよ。一体何をしているんだか・・・。
　　　あなたから少し叱ってやって・・・。」

　間。父、新聞を不機嫌に捲る。

母　「あなたはいつもそうよ。『家のことはお前に任せる』
　　　なんて都合の良いことばかり言って・・・。
　　　仕事が忙しいなんて、言い訳ばかりして・・・。」
祖母「そうだよ。お前は昔からそうだった。」

　
S.E　5分26秒から↓

父　「1996年、すべての家族は崩壊する運命にあると誰かが言った。
　　　そんな極端な話に自己暗示にかかってしまったのではないかと私は思った。
　　　何故なら、それが全ての崩壊の始まりだったからだ。
　　　『なあ、智博。お前は父さんを馬鹿だと思っているかい？』
　　　息子はしばらく眉間に皺をよせて何かを考えていたが、
　　　やがて私からわざと視線をそらしてこう言った。」
兄　「本当をいうといつも思っていた。」
父　「『秋子。お前は父さんに何かを隠してないかい？』　　
　　　娘はとぼけた顔をしていたが、私の険しい目を見て
　　　怖気づいたようにこう言った。」
妹　「お父さん、援助交際って本当に悪いことなのかな。」
父　「『妻よ、お前は私をまだ愛しているかい？』」
母　「実は最初からあなたのことを愛してなんかいなかった。
　　　だってそうでしょう。お見合いで会って、２、３回話しただけで
　　　本当に好きになれるわけないでしょ。」
父　「私はお前が好きだったよ。そして、子供達も好きだった。
　　　この家に帰ってくるのが毎日楽しみだったよ。なのに、お前たちは・・・。」
祖母「それは違うよ。」
父　「母さん。」
祖母「お前は昔から誰も愛しちゃいないよ。愛しているのは自分だけだよ。」
父　「・・・そうかもしれないと私は思った。もし、そうであるならば一つだけ
　　　やり残したことがあると私は思った。そして私は、家族の一人一人に頼み込んだ。
　　　嫌がる家族の同意をやっと取り付けて試みたのが、この実験だったのだ。」

　　暗転

　　明かりがつくと、元の食卓である。

父　「ただいま。」
母　「・・・。」
父　「ただいま！」
母　「あら、珍しいわね。こんなに早く帰ってくるなんて。」
父　「いやね、不景気でね。会社も残業代ケチちゃって・・・。
母　「やあね、残業代減ったら・・・。
　　　ただでも最近智博の塾とかでお金がかかるっていうのに。」
父　「ところで、秋子は？」
母　「さあ。」
父　「さあって、もう８時じゃないか。」
母　「最近いつも遅いのよ。どうせ部活でしょ。」
父　「こんなに遅くまでやるもんかね。」
母　「さあ。」
父　「さあって、お前母親だろ。」
母　「そうよ。でも、最近何を訊いてもろくに返事をしないのよ。」
父　「智博は？」
母　「予備校よ。」
父　「・・・智博、成績どれくらいなんだ？」
母　「さあ。」
父　「さあってことないだろ。」
母　「あんまりよくないらしいわよ。三者面談にも絶対来るなって言うくらいだから。」
父　「それで、本当に行かないのか？」
母　「そうよ。」
父　「そうよって。そりゃ、親としてあんまり無責任なんじゃないのか？」
母　「あなたほどじゃないわよ。」
父　「何！」

　祖母、登場。

祖母「あら、帰ってたのかい。珍しいね。」
父　「そりゃ、自分の家ですもの。帰ってきますよ。」
祖母「あれま、随分ご機嫌斜めだこと。」
母　「お母さん、ここにあったケーキ知りません？」
祖母「ああ、それなら高橋さんちのおじいさんが遊びに来たので、食べちゃったよ。」
母　「あれはね、私が買っておいたのよ。お客様のために。
　　　まったく年寄りは意地汚いんだから。」
祖母「何がお客様だい。たかが保険の営業じゃないか。」
父　「何だい、お前。お前は一々保険のセールスのために、
　　　お菓子まで用意して待っているのか？」
母　「あら、あなたには関係ないことよ。」
祖母「そうかしら・・・。気を付けた方がいいよ。その保険ってお前の生命保険だよ。」
父　「生命保険なら、もう入ってるじゃないか。」
母　「い、いえね。この先秋子の結婚とか、智博の大学とかでお金のかかる時期でしょ。
　　　あなたに万が一のことがあっては大変だな、なんて思ってね。」
祖母「本当かしらね。」
母　「お母さんはいいわよ。どうせこの先長くはないんだから。」
祖母「どういう意味よ。」
母　「先の心配がいらないでしょって言ってるのよ。」
祖母「何言ってるのよ。仁聞いておくれよ。この人はね、あたしを老人ホームに
　　　入れる計画してるんだよ。」
父　「本当か？」
母　「ちょっと、何言ってるのよ。」
祖母「私が知らないとでも思っているのかい。」

　妹、登場。

父　「こら秋子、『ただいま』くらい言ったらどうだ。」
妹　「あら、お父さんいたの？珍しい。」
父　「なんて言い草だ。大体お前、今何時だと思ってるんだ。」
妹　「まだ8時過ぎよ。」
父　「帰りが遅いって言ってるんだ。」
妹　「何言ってるの。今日は早いわよ。ねえ、お母さん。」
母　「そうね。6時間くらい早いわね。」
父　「お前、普段どういう生活しとるんだ。
　　　大体、誰のおかげで私立まで行かせてもらってると思ってるんだ。」
妹　「何言ってるのよ。今時私立に行かせるくらい、親の当然の義務じゃない。」
母　「ほらほら、早くご飯たべちゃなさい。」
妹　「私、食べてきたからいい。」
父　「誰と？」
妹　「誰とだっていいじゃない。第一、お父さんには関係ないでしょ。」
父　「何だって。」

　兄、登場。

兄　「ただいま。・・・あれ親父、珍しいね。」
母　「あら、智博。お帰り。」
兄　「今度、また予備校の特別講習に通うから・・・。」
母　「じゃあ、またお金がかかるわね。いくら位・・・。」
兄　「まあ、10万ンもあればいいよ。」
父　「10万ってお前、随分簡単に言うじゃないか。」
兄　「何言ってるんだい、親父。これでも安い方だぜ。」
父　「勉強なんて、自分でするもんだろ。」
兄　「まったく分かってないなあ。親父の時代とは違うの。
　　　少しでもいい講座をとってそれでいい大学に受かりゃ、それでいいじゃないか。」
父　「そんなにしてまで、いい大学行かなくちゃいけないのかねえ。」
母　「あなた。ウチみたいに財産もなにもないのは、せめてそれ位子供にしてやるのが
　　　常識じゃない。」
兄　「まあ、これで医学部にでも入れりゃ、元は取れるでしょ。」
父　「お前、いつから医者になりたかったんだい？」
兄　「別に医者になんかなりたくないけどね、食いっぱぐれる心配がないだけ
　　　マシかなと思ってさ。」
父　「お前、今からそんな夢のない話してどうするんだよ。
　　　私がお前の歳位の時はね・・・。」
兄　「夢なんて持てるわけないだろ。こんな時代に。」
祖母「そんなことよりお前、今日はどうしたんだい。いつもは全然家族のことなんか、
　　　気にも留めてないっていうのに。」
父　「そんなことないですよ。私はいつも家族の幸せを願ってですね・・・。」
母　「良く言うわよ。子供達のことは、全部私にまかせっきりじゃないの。」
父　「それはつい忙しくてね・・・。」
母　「そうよ。世間の亭主ってのは皆同じ事言うのよ。いつの時代も損をするのは女。
　　　家庭に縛られれて歳をとっていくだけ・・・。
　　　いつの間にか『おばさん」と呼ばれる歳になっていくのよ。」
祖母「お前、何か言いたいことがあるんじゃないのかい？」
父　「実はそうなんだよ。・・・まあ、皆ここに座って話を聞きなさい。」
兄　「何ですか。僕はまだ受験勉強が残ってるんですからね。」
妹　「私、今日は疲れたから・・・。」
父　「黙れ！座れったら座れ！！」
兄　「おおコワ！」
妹　「何よ、まったく。」

　食卓に全員座る。

父　「実はな・・・。」
母　「実はどうしたのよ。」
父　「実は、今日辞表を出してきた。」
妹　「ジヒョウ？何、それ？」
祖母「秋子、それでも学校に行ってるのかい。焼酎にあるじゃないの。」
兄　「それは樹氷だろ！」
母　「あ、あなた本当なの！？」
父　「本当だ。」
母　「ど、どうして。どうして私達に黙って！」
父　「言えば反対するだろ。」
母　「当り前じゃない！」
祖母「でも、どうして。」
父　「リストラだよ。今ならまだ退職金が出るからって。」
母　「あなたって人は・・・そんな大事なことを・・・。」
妹　「私、よくわかんなあい。」
兄　「つまり、親父は会社でも不要な存在だったって訳ですよね。」
父　「でも、とはなんだ。でもとは。」
母　「あんなに家族をほったらかしにして、挙句の果てにクビなんて、あんまりよ。」
父　「クビじゃない。希望退職だ。」
祖母「でも、実質はクビだろ。」
兄　「ということは、これからどうやって生活するんだよ。」
妹　「そうよ。学校だってまだ一年以上あるのよ。」
父　「大丈夫・退職金は出たから。そこで提案なのだが・・・。」
母　「これは前から考えていたことなんだが・・・。
　　　この金をもとに『蕎麦屋』でもやろうと思うんだ。」
妹　「蕎麦屋って・・あの蕎麦屋？」
父　「よくあるじゃないか。『脱サラ』して成功している例が・・・。」
母　「冗談じゃないわよ。私に蕎麦屋の女将さんになれっていうの？
　　　そんなの結婚の条件に入ってない。」
父　「何を今更、そんな大昔のことを。」
妹　「私だって嫌よ。カッコウ悪いじゃないの。いくらその歳で係長どまりだからって
　　　一応一流企業務めだから体裁保ってられるのよ、お父さんは。
　　　私の結婚が不利になったら、いったいどうしてくれるのよ。」
兄　「僕も反対ですね。第一リスクの大きいことはバブルの崩壊したこの時期に
　　　やるもんじゃないですよ。特に飲食店なんか・・・。」
父　「じゃあ、お前たちはは私にどうしろというんだい？」
祖母「辞表を撤回する訳にはかないのかい？」
妹　「『あれはちょっとした出来心です。』とかなんとか言ってごまかしちゃえば。」
兄　「出来心っていうのは、ちょっと甘いんじゃないかな。」
父　「今更そんなことできないよ。」
母　「どうしてよ。」
父　「私にだってプライドってものがある。」
妹　「え～。そんなのあったの？」
母　「プライドと家族の幸せとどっちが大切なのよ。」
父　「だから、私は商売を始めてだな・・・。」
祖母「・・・こういうのはどうだい。私が老人ホームに入るお金を退職金から出す。
　　　そうしたら、私は出て行くから。いい加減こんな意地悪な嫁の顔見ながら
　　　生活するのもウンザリしていあたところだから。」
父　「えっ？」
兄　「お祖母ちゃん、それはずるいですよ。それならお父さん。僕も予備校の寮に入る
　　　お金と、当面の生活費を下さい。それで、いいですよ。」
妹　「じゃあ、私もそれでいいわ。実を言うと、もう彼のマンションで、
　　　半分同棲しているようなものなの。」
父　「な、何だって。」
母　「でも、その男に捨てられたらどうするの？」
妹　「その時はその時よ。彼に家、お金持ちだから、慰謝料沢山取ってやるわ。」
父　「お前自分の言ってることが分かっているのか？」
母　「じゃあ、私もここに居る理由がないわね。」
父　「何言ってるんだい。お前は私の妻じゃないか。」
母　「子供たちがいるから我慢していたのよ。そんなことも分からなかったの？」
父　「何だって。」
祖母「それじゃあ、話が早いよ。退職金のうち、誰がいくらもらうか、
　　　決めりゃいいだけじゃないか。」
母　「ついでにこの家も売っちゃった方がいいんじゃないかしら。」
兄　「誰かに貸した方が得かもしれませんよ。」
父　「お前たち本気で言ってるのか？」
妹　「本気よ、本気。冗談でここまでいう訳ないじゃん。」
兄　「いいじゃないですか。お互い後腐れなく、この後生きていければ・・・。
父　「馬鹿野郎！・・・・・・お前ら・・・お前ら・・・。」

　父、去る。すぐにポリタンクを持って登場。何かまく。

父　「確かに駄目な父だったかも知れない。」
母　「まさか。」
父　「確かに家族のことを考えていなかったかも知れない。（ライターを出す）」
兄　「早まるな、親父！」
妹　「一家心中なんてまっぴらよ。」
父　「でも、私は私なりに家族のことを思っていたつもりだったのだ。
　　　だから、仕事も頑張っていたつもりだったのだ。
　　　だから、向かない仕事も馬鹿にされながら我慢していたつもりだったのだ。　　
　　　安らぎの場であるはずの家が、私の家族がこんなになっていたなんて、
　　　気づかない私がやはり愚かだったのか・・・。
　　　そうなのか！？教えてくれ、正直に教えてくれ！」
妹　「そ、そんなこと、そんなことないわ、お父さん！」
兄　「じ、実は僕はお父さんのことを尊敬していたんだ！」
母　「私だって、あなたのことを愛しているわ。でも、恥ずかしくて言えないじゃない。
　　　いい歳して！」
父　「嘘を言うな！白々しい嘘を付くな！分かっているよ。私が愚かだったってことは。
　　　・・・何も気づかずにいた私が愚かだったってことは・・・。
　　　いや、気づいていたんだ。いつかこんな日が来ることも・・・。
　　　また会おう、あの世で。素晴らしい家庭をあの世で作り直そう。
兄　「親父、止めろ！」
祖母「止めなさい！」
妹　「止めて、お父さん！」
母　「あなた、お願い！！」

　父、ライターを放る。暗転の中、金属音を響かせて転がるライターの音。
　S.E．
5分26秒から↓

　遠くから電車の汽笛の音。

兄　「時間だ。」
妹　「時間よ。」
祖母「時間だね。」
母　「時間だわ。」
兄　「行かなくちゃ。」
妹　「行きましょう。」
祖母「行こうかね。」
母　「行きます。」

　明かりがつくと、元の食卓である。

兄　「お父さん。驚かさないで下さいよ。」
妹　「本当、本気で殺されるかと思っちゃった。」
母　「この人は昔から人を騙すのが得意なのよ。」
父　「何だい、人聞きが悪いなあ。」
祖母「昔から我儘なのよ。皆をこんな芝居に巻き込んで。」
兄　「でも、最後は何だか・・・。」
母　「どうしたの？」
妹　「兄さんも？」
兄　「自分でやってて嫌になったよ。」
妹　「ねえ、私っていつもあんなだったかなあ。」
母　「そのままよ。」
祖母「私も最初は老人ホームなんか行きたくなかったんだけど、
　　　最近は面倒くさくなってね、つい・・・。」

　父、テーブルの下からケーキを出す。

妹　「あっ、ケーキ。」
兄　「今日誰かの誕生日だったっけ。」
母　「結婚記念日よ。あなた、覚えてたの？」
父　「ああ、ここ数年は仕事で帰りが遅かったからなあ。
　　　でも、今年は特別だ。」
祖母「何年になるかね。」
母　「ちょうど20年になります。」
祖母「早いものだねえ。最初は味噌汁ひとつ作れなかった幸代さんが、
　　　今はもう誰にも引けを取らない立派な主婦だものねえ。」
母　「いやですわ、お母さん。心にも無い事を・・・。
　　　それは、お母さんの厳しいご指導のおかげです。」
兄　「でも、結婚記念日にケーキなんて食べるかな。」
妹　「いいじゃない。いただきましょ。」
父　「これはお前たちの誕生日のお祝いも兼ねているんだ。
　　　ここ数年分まとめてな。」
兄　「なんか照れるな。今更ガキじゃあるまいし。」
父　「それから、プレゼントだ。（テーブルの下から包みを出す）」
妹　「わあ、ありがとう。」
祖母「おやおや、私にもかい。」

　皆でケーキを食べながら、騒ぎ合う。
　　父母の出会いの話。
　　子供達の小さい頃の話
　　などなど。

母　「さあ、そろそろ私は・・・。」
父　「まだいいじゃないか。これが最後なんだから。」
母　「でも・・・。」
兄　「何だか眠くなってきたな。」
妹　「私も・・・。」
祖母「私もだよ。」
兄　「行かなくちゃ。」
妹　「終電に乗り遅れるから・・・。」
祖母「間に合わなくなるから・・・。」
母　「出発しなくては・・・。」

　皆、静かに寝てしまう。

父　「こうして、私達のホームドラマは幕を閉じる。
　　　家族がお互いをいたわり合い、助け合い、愛し合い。
　　　これぞ、ホームドラマのクライマックスなのだ。」

　暗転。

声　「昨夜仙台市内の閑静な住宅街で、一家5人が集団ガス自殺を謀るという事件がおこりました。
　　　仙台中央署の調べによりますと、この一家は夕食後、睡眠薬のようなものを服用した上、
　　　ガスの元栓を開き、そのまま・・・・・・。

　S.E．

　明かりが付くと父が食卓に一人佇んでいる。

父　「もう、10年以上も前だったろうか。皆で季節外れの海に行ったことがあったね。
　　　人はまばらで、もう泳ぐことさえ出来ない海だったけど、
　　　家族そろって出かけるなんて、本当に久しぶりで・・・。
　　　私は本当に嬉しかったよ。
　　　防波堤に腰かけて、皆で海を見ていたね。
　　　何時間も何時間も見ていたね。
　　　よく退屈しないもんだと、我ながら感心する位
　　　永いこと、海を見ていたね。
　　　そのうち陽が完全に沈み、
　　　隣にいるお互いの顔が見えなくなる頃、やっと腰をあげた。
　　　皆、同じ気持ちだったと思う。
　　　
　　　私達は、そうやっていつもホームドラマを演じてきたじゃないか。
　　　そうだろ・・・。
　　　違うかい？
　　　そうだろ・・・。

　　音楽果てしなく。

　　　ーーーーー幕ーーーー

　　
　　　　　　
　　　

　　

　

　

　

2021年10月03日01:50

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ＳNS劇場　「家族の食卓」復刻バージョン⑤

男＆刑事　登場。

男　「ちくしょ～！俺はもう終わりだ～。」
刑事「坂本、冷静になれ！まだ、やり直せる。」
男　「邪魔するな、邪魔するとお前もぶっ殺すぞ。」
刑事「坂本！冷静になれ！それを渡すんだ！」
男　「馬鹿野郎～～。」

　発砲音。

男　「うおおお～～。（去る）」
刑事「なんだこりゃああ。」

　暗転。

母　「ところで、この間隣町で暴力団の発砲事件あったでしょ。」
妹　「そうそう、怖かったわね。すぐ近くで殺し合いだもんね。」
父　「安心して街も歩けんな。」
母　「それがね、どうやら麻薬中毒者だったらしいのよ。」
妹　「でも、あれってかなり若い人だったらしいわよ。」
母　「そう、19歳。」
父　「智博と同じ歳じゃないか。」
母　「それが、その男から予備校生にかなりの麻薬が出回っているらしいの。」
父　「なんだって。」
母　「その男って、元予備校生で、受験戦争に挫折して自棄になって
　　　予備校生も巻き沿いにしようとしていたらしいの。」
妹　「兄さん、大丈夫？」
兄　「何言ってるんですか。」
妹　「でも覚せい剤って寝なくても頭が冴えてきて、切羽詰まった受験生にはいいかもね。」
父　「馬鹿なことを言うのはやめなさい。」
母　「でも、覚せい剤って、禁断症状がかなりひどくて震えが来るらしいから
　　　すぐに分かるわよ。」
兄　「何言ってるんですか、皆で。大体僕はそんなに焦んなくたって、　
　　　ちゃんと大学位受かりますよ。」
祖母「そういえば、お前この頃よくいなくなるよねえ。急にフラッと。」
父　「さあさあ、もう少し楽しい話題を・・・。」

　兄、急に震え始める。

妹　「あら兄さん、どうしたの。寒い？」
兄　「な、何でもありません。」
父　「おかしいな、今日はあったかいけどな。」
兄　「だ、ダメだ！もう我慢できない。」

　兄、去る。

祖母「おやまあ、またいなくなっちゃったね。」
妹　「お母さん、今震えてたよね。」
母　「ま、まさか！」
父　「まさかってお前。」
母　「智博の予備校にも出回っているらしいのよ。」
祖母「それじゃ、智博はやっぱり・・・。」
妹　「そういえば、いつもああやって部屋に飛び込んでいくくせに
　　　戻ってくると落ち着いてサッパリした顔してるわ。」
父　「そんな、バカな。」
祖母「そういえば、この頃よくお金が足りないって・・・。」
母　「あなた、警察に知らせた方が・・・。」
妹　「兄さん！」

　兄、再び登場。手には注射器を持っている。

兄　「ああ、さっぱりした。」
妹　「兄さん・・・。」
祖母「あんたって人は・・・。」
母　「ああ～～！（倒れる）。」
父　「お前、それは・・・。」
兄　「こ、これですか？な、なんでもないですよ。」
父　「お前ってやつは・・・、バカヤロウ！（殴る）」
兄　「な、なにするんですか？」
父　「何するんですかだと！お前自分のやっていることが分かっているのかあ！」

　ともみ合っているうちに、何かが落ちる。

妹　「（注射器を拾って）あら、これおもちゃじゃない。」
父　「（人形を拾って）何だこりゃ？」
兄　「見ましたね。」
母　「（起き上がって）どうしたの？」

兄　「世間の人は、最近の予備校生はなんて気楽なんだろうと思っているかもしてません。
　　　でも僕らにだって、心の支えが必要なんです。いくら模擬試験の成績が良くたって
　　　本番の入試でどうなるかなんて分かったもんじゃありませんからね。
　　　そうです。実は僕の心は不安で不安で、毎日目に見えぬプレッシャーに
　　　押しつぶされそうでした。そんな、僕の心を慰めてくれるのがこの『リカちゃん人形』
　　　だったのです。どこが悪いんですか。それのどこが悪いっていうんです？」
妹　「悪くはないけどね。」
兄　「そうです。今日は『りかちゃんの病院セット』で心を紛らわしていましたよ。
　　　いつもそうです。僕は３０分りかちゃんの顔を見ないと禁断症状が起きるんです。」
妹　「それって変態じゃない？」
兄　「・・・分かりました。僕はこの家を出ます。浪人というだけで、
　　　ひっそりと控えめに生活して来たのに（どこが？）
　　　そのうえ、そんな軽蔑した目で見られては生きていけません。
　　　どうせ、僕なんかこの家に似合わない邪魔ものです。変態です。
　　　僕はもう・・・。（去ろうとする）」
父　「馬鹿野郎！（再び殴る）・・・いいじゃないか、智博。いいじゃないか。
　　　誰だって人には言えない秘密ってもんがあるんだ。そんなこと気にすることはない！」
兄　「親父い！」
父　「私だって実は持っとるぞ。どうだ、これが初代リカちゃんだ！」
祖母「やっぱり、親子だねえ。」

　　　間　

　
　

　

早瀬俊@theater_shun

SHUN先生の腹黒日記

2021年10月

「恋です」って自分にはあったのかなあと思うこと。

文化祭公演、幻のごあいさつ

「家族の食卓　１９９６」復刻バージョンを公開します。

ＳNS劇場　「家族の食卓」復刻バージョン⑥

ＳNS劇場　「家族の食卓」復刻バージョン⑤

theater_shun2001_h...

SHUN先生の腹黒日記

2021年10月

「恋です」って自分にはあったのかなあと思うこと。

文化祭公演、幻のごあいさつ

「家族の食卓 １９９６」復刻バージョンを公開します。

ＳNS劇場 「家族の食卓」復刻バージョン⑥

ＳNS劇場 「家族の食卓」復刻バージョン⑤

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ＳNS劇場　「家族の食卓」復刻バージョン⑥

ＳNS劇場　「家族の食卓」復刻バージョン⑤